若い頃って、自分の髪型を気にしませんか?
私は汗かきで、セットがよく乱れるのでそれがもう嫌で嫌で。鏡だけでなくお店のショーウィンドーでも、髪の毛をチェックできるとすぐ確認したくなっていました。
そんな時に出会ったのが帽子でした。帽子を被ると、髪型を一切気にしなくてよくなり、「なんて身軽なんだろう」と思ったのです。それがきっかけで帽子が好きになり、あれこれかぶるようになりました。
大阪文化服装学院というファッション系の専門学校に通っていました。服飾系のクリエイター学科で、いわゆる「ものを作る」コースの学科です。
型紙から縫製、服飾の歴史まで一通り勉強しました。
私たちの時代は、帽子学科なんてものは無く、服を製作するコースしかありませんでした。しかし、就職する際に「帽子」という募集項目があり、帽子が好きなので、そこを選び入社した、というのが帽子製作の最初のきっかけです。
そこは帽子のメーカーで、私はデザイナー兼サンプルメーカーという業務に携わりました。サンプルメーカーというのは、企業さんから頂いた「この生地でこういう形に再現してください」というオーダーを、デザイン画やベースサンプルを元に、希望の形に帽子を製作する仕事です。
勉強していたのは服飾だったので、布を使って作るという部分においては同じですが、内容は全く違いました。ただ、服よりも工程が少ない帽子は、デザインしたものを早く形にしたいという、少しせっかちな自分の性に合った仕事でした。
メーカーの仕事はOEMも多く、ゴルフブランドや釣りの帽子もあれば、セレクトショップに並んでいるブランドからの依頼もありました。
その中で、自分の世代に繋がるようなデザインの仕事をした際はとても楽しく、また、そのデザインの帽子を店頭で見かけた際には、「これは自分が作ったやつや」と喜びを感じました。
ただ、そういう仕事ばかりでもなく、オーダーがあってのデザインなので、自分のやりたいジャンル・デザインではない場合も多くありました。そうした中で「自分のやりたい部分だけをもっと突き詰めてやってみたい」という気持ちが強くなり、独立しました。
独立したタイミングで「帽子ブーム」があり、その影響で需要は凄くありました。売り上げもとても良く、何より「自分がやりたかったものに焦点を当ててものづくりができる」ということへの満足度がすごく大きかったです。
カッコイイ製品を作りたい一心で、ただがむしゃらに帽子を作り続けてきました。自分にとっての「カッコイイ」は、自分が被って鏡を見た時に、「あっ、イケてる」と思えるシルエットかどうか?だと思います。とても感覚的なことなので、言葉にするのは難しいですが、「この服カッコイイ」「ここのメーカーの服は形が綺麗」というのも、その人の感性だと考えます。その考え方で、私自身が「100%カッコイイ」と思えるものを作り続けています。
ただ、自分自身では良いと思っていても、それがどれだけ人に届くのかは未知の世界、「ゴールが分からない」ので、そこが難しいですね。自分の思う良さがお客様の思う良さになるかどうかは分からない。ある種、「独りよがりなのではないか?」という自問自答は常々あります。
しかし、人の思う良さに合わせてデザインをすると、売れている時は良くても、売れなくなった時にどうすればいいのかが分からなくなってしまう。だから、自分のモノづくりの指針である「カッコイイ帽子の定義」をしっかりと 持って製作をしています。すごく感覚的なことですが、とても重要視しています。
帽子は「キャップ」「ハット」など、基本的な構図が既に決まっています。そこに他のジャンルを参考にして、「ドレープ」など服飾の専門学校で学んだ技法を取り入れてみたり、靴のデザインや美術館で見たいびつな形を取り入れてみたりするとどうなるのだろうかと、ひとまず要素を取り入れてみて、試作をたくさん作ります。
最初は失敗がほとんどですが、その中から研究して形になる製品もあれば、お蔵入りになることもあります。しかし、しばらく寝かせたあと成功することがあるため、お蔵入りになっても、その半年後や一年後にもう一度チャレンジしてみます。すると、すんなり上手くいくこともあります。
そこも自分の感性の問題なので、商品として世に出すにはとにかく時間がかかります。自分の思う「カッコイイ」に嘘はつけないですから。
昔は工場にお願いして、縫製や採寸などをしてもらっていました。ただ、自分で行った作業が90点だとすると、工場で行われた作業は6〜70点ぐらいでした。それでは自分が良いと思う商品を販売できない。
例えば、キャップの頭の部分は、6枚の生地と6つのラインで縫製されています。これが1mmでもズレると、58cmのキャップが58cmピッタリではなくなります。「58cm」だからこそ、自分の中でイケてる商品なのに、そうではなくなる。工場には様々な受注・納期があり、そのための考えがあるのでしょう。でも、私はそれでは満足できませんでした。
生地は縦と横の糸で編まれていますが、長く触れると撚れてしまい、生地の質感や大きさなどが変わってしまいます。恐らく工場では、生地に触れている時間が私より長いのだと思います。そうした細かな部分の差を、私は妥協できませんでした。
もちろん、自分の帽子をもっとたくさんの人に被ってもらいたい、という想いはあります。けれども、自分の考える「カッコイイ」を崩してしまうと、これまでに購入してくださった方、リピートしてくださる方を裏切ることになってしまうのではないだろうか?と考えました。そのため、現在は全て自分の手で、仕上げまで行っています。
自分のデメリット、例えば、四角顔タイプの人が四角い形の帽子をかぶると、四角い輪郭を強調してしまいますし、大きい顔の人が小さい帽子をかぶると、顔が大きいことを強調してしまいます。そのため、デメリットを「カバーする」形の帽子が良いと言われています。
しかし、たくさん試着することをお勧めします。
これまで多くの方を接客してきましたが、同じ商品でも被った瞬間に「これを待ってた!」と喜ぶ方もいらっしゃれば、「これあかんわ」と残念がる方もいらっしゃいます。
他にも、店員に「似合ってますよ」と勧められて買ったものの、自分では「何か違う」と感じて、「買ったっきり一度も被っていない」という声もお聞きします。顔に近い商品なので、誰かの意見を鵜呑みにするのではなく、それぞれの方が感じる「カッコイイ」を求められればいいなと願います。
ただ、「これは似合わないから」と、試着する機会を避ける方もいらっしゃいます。もしかしたら、食わず嫌いであったり、意外な発見を遠ざけてしまったりしているかもしれないので、もったいないです。
試着自体は無料ですので、出来るだけチャンスを逃さずに試着してください。100人いれば100通りの「カッコイイ」があるはずです。あなたに合った被り方で、自分の「カッコイイ」を求めてもらえればと思います。